LOG IN

十六時の猫

   知らない雨が降った。山奥から起き出したカラスがわんわんと鳴く頃、空はピンク色に焼けた。大きな光が形のひとつひとつを白く刻み、辺りの影を青く落とした。一息ついて、人間たちは慌ただしく飛び出した。わたしは形の隙間で、カラカラになるまで寝転がった。穏やかな空気が少しだけ「寂しい」を連れ戻す頃、わたしはやっと起き上がって水溜まりへいく。

日溜まりにころがる

  朝、腹いせのように鳴らされたトラックのクラクション音にめげて会社を辞めた。流れで彼女に一方的な別れ話をLINEで送り、そのままブロックした。ネット上のアカウントも全て削除し、スマホの解約まで済ませて、十三時。駅前のベンチで、二五〇円で買った生春巻を食べている。積み重ねてきたものを全て失った記念の食事である。失うことには半日もかからなか

生きていてよかったとおもう

何もない朝、窓際の日向にうずくまっていた。ここ数日咳がとまらなくて、そのせいか身体中が痛い。けれどもこうやってひなたぼっこをしていると、身体は次第にみしみしと音をたてて、それから少しずつ解れていく。いろいろなことが治るような気がした。 肌寒くなると、わたしはいつも、濃くて温かい麦茶をいれる。わたしは珈琲がだいすきで、ほんとうは豆を挽

それは彼女の部屋で二人

「あなたが愛しているのは私ではないし、私が愛しているのもあなたではない。」  彼女はベッドの中で私を抱きしめ、私の視界を奪ったまま、耳元でそのように言った。それは全くその通りであり、更に、私と彼女のそれぞれに異なる恋人がいることとも、それは全く無関係な話であった。  彼女はゆっくりと腕をほどいた。薄い暗やみの中で、月明かりが淡く彼女の

穏やかな地獄に守られていた

  視線を動かすことそのものが罪のように感じられた。私は身体を硬直させたまま、通り過ぎる腕だけを見ていた。この空間には同い年の人間が三十人もいる。異様。誰もが、一人にならないように会話を擦り合わせているようだ。私は一人、机に突っ伏していた。私には、それぞれの話していることが分からないのだ。  指先で触れた消ゴムが、指の腹を刺した。見る