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それは彼女の部屋で二人

「あなたが愛しているのは私ではないし、私が愛しているのもあなたではない。」  彼女はベッドの中で私を抱きしめ、私の視界を奪ったまま、耳元でそのように言った。それは全くその通りであり、更に、私と彼女のそれぞれに異なる恋人がいることとも、それは全く無関係な話であった。  彼女はゆっくりと腕をほどいた。薄い暗やみの中で、月明かりが淡く彼女の

穏やかな地獄に守られていた

  視線を動かすことそのものが罪のように感じられた。私は身体を硬直させたまま、通り過ぎる腕だけを見ていた。この空間には同い年の人間が三十人もいる。異様。誰もが、一人にならないように会話を擦り合わせているようだ。私は一人、机に突っ伏していた。私には、それぞれの話していることが分からないのだ。  指先で触れた消ゴムが、指の腹を刺した。見る

逃げ水

  「逃げ水を捕まえにいかない? 」   彼女は不思議な誘い方をする。  「掃除の時間」が始まると、彼女は床のタイルをひとつ選び、その一枚を丁寧に丁寧に、たったの一枚をただひたすらに拭いていた。僕はそれをやる気がないと捉えるべきか、熱心だと捉えるべきかと考えながら教室の端から雑巾をかけはじめ、いよいよ彼女の目の前に到達した。 「……丁寧だね

ある夜の同時

……犯人は現在、刃物を所持したまま東名高速道路を西へ逃走しているとみられ、警察は行方を……」こわいなあ。私はニュースを流し見ながら、最後のひとつに残ったコーンを皿の端へ、端へと追いやっていた。隣の家から漏れる食卓の会話と、遠くか細く伸びる救急車のサイレンが、気だるい夜風とともに部屋の窓から流れ込む。この平凡な夕食時に、たった今、あ

消える

  ああ、月が目の前に。目の前、というのはビルの隣でやたらと大きく見えるあのような月のことではない。あと五センチメートルも近付けば私の鼻を削る、そのような目の前だ。それも、私はひとり部屋で背中とシャツとの間に熱を溜めながら仰向けに寝転がり、足で理由もなくカーテンを引きずっている。そこに月があるのだ。  何故目の前に月があるのか。これは