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夜とバス

by 中村菜月

   わたしはバス停に立っていた。学校へ行きたいのですが、と訊くと「最終的にはそこへ行きますよ」と言われた。わたしは乗り込み、バスは発車した。随分と走った。気が付けば夜だった。外は寒いのだろうか。曇った窓ガラスを拭うと、異国の建物がたつ街だった。夢だ。わたしは覚める方法を探った。

   運転手は偽者だった。乗客はみな、同じくらいの年齢か、少し年下のようだった。わたしたちは誘拐に遭っていた。「走り続けるだけだから、大丈夫だよ」俺もあの運転手に雇われているだけだから、いつまでなのかは知らないけど、と言いながら、男はわたしたちを見張っていた。不安がる者は一人もいなかった。

   窓を叩けば割れるだろうか。ドン、と叩いても、手に衝撃が跳ね返るだけだった。これだけ鮮明な夢は厄介だ。わたしは座席の起毛を撫でながら、次の方法を考えていた。男は乗客に絵を描かせるゲームをし、乗客は前の席から順番に絵をみせていた。覚める方法を探っていたわたしは、絵を描きそびれていた。

   殺される。このゲームで絵をみせなければそうなる、と、咄嗟に理解した。わたしは一番後ろの席に座っていた。つまり、最後がわたしだ。わたしは急いで荷物を漁り、絵を出した。これで誤魔化せるだろうか。「いい絵だね。きっと遠くへ行けるよ」男は満足そうに席に着いた。バスは二日間走り続けた。

   さあどうしようか。この夢は、放っておけば覚めるのだろうか。わたしは何時でも脱出できるようにと荷物をまとめだした。百円ショップで買った大きな鏡がかさばった。これは置いていこうかな。上着を着ると、逃走を図っていることがバレるだろうか。ふいに通路脇の少女が席を離れ、わたしの隣に座った。

  まずい、バレる。少女は長い髪をさらりと垂らしながら鈴のように囁いた。「ティン、トンタン、ララ。この歌覚えてる? そう、昔、疑ったでしょ。あの人は人拐いなんじゃないかって」ああ、懐かしい。よく覚えているよ。耳の奥から背骨に繋がる辺りの所に、記憶が残っていた。少女は「いくよ 」と言い、わたしの手を引いた。

   わたしたちはバスから脱け出し、深い夜へ降り立った。ピリ、と冷たい空気が頬を凍てつけた。雨上がりの湿度の中を泳ぐように、わたしたちは線路の上を走っていた。電燈はわたしたちをオレンジ色に照らし、濡れた線路をどこまでも鈍くなぞっていた。「このまま走って」と言う声に、すとん、と安心した。わたしは目を覚ました。

2019年の初夢です。早朝4時、目覚めてすぐに書きました。見張り男の絵の感想は、この一年間大切にしてみようと思います。助けてくれた少女の名前はスズでした。偶然にも、わたしがよく描く絵の名前ですから、頭の片隅にあったのかも。助けてくれてありがとう。

今年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

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