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背の跡

by 中村菜月

   年の瀬、ある夜のことだった。わたしは夢の中で、絨毯の張られたロビーに立っていた。辺りは厳かな闇だ。ぼんやりと照明が、視界をより一層不気味に包み込んでいた。暗闇には温度があった。このロビーは上階のようだ。すぐ横に、下へと続く階段がある。わらわらと、人が昇ってきた。親子が三組、わたしの隣で立ち話をはじめた。

   子供が一人、親から離れた。すると後ろから、わたしに抱きついた。

 「あ、すみません、お子さんが、」

   親は気が付いていないようだ。どうしよう、取り敢えず、この子供を離そう。わたしは子供の手をそっと離そうとした。離れない。子供はわたしにしっかりとしがみついたまま、全く離れようとせず、その腕に力を加えた。

   めり、めり。

   しがみつく子供の頭が、わたしの背骨に食い込んだ。腕の力は弱まることなく締め付けを続け、いよいよ息が出来なくなった。痛い、苦しい……。

   わたしはアパートで目を覚ました。恐ろしさで息があがっていた。あ、痛い。背中にまだ、違和感が残っていた。

   それから数日経ったある日のことだ。わたしは急に背中に激痛を抱え、動けなくなった。痛みは腰から肩、脇腹にまで及び、身体中を締め付けた。この痛みのことを、わたしはよく覚えている。大学時代、立つことも出来ないまま、なんとかタクシーで病院に行ったのだ。原因は不明、レントゲンにも何も映らなかった。

   呪いだ。わたしはあの夢の中で、あの子供に呪われたのだと悟った。こういうことが、たまにある。精神に異常をきたし数日寝込むこともあれば、身体に出ることもある。痛みがひき、熱いシャワーを浴びた。背中がまだ痛むなあと触れた。ああ、これは良くないな。子供の頭がめり込んだその場所が、内出血を起こしていた。

1月3日、古戸の花祭へいってまいりました。神さまのちからが弱まる冬に一日半舞い続け、歌ぐらをうたい、湯を焚き、そのちからを強めるというものだそうです。山奥に張られた結界のなかで、しばらく過ごしました。極寒の中夜通しでやまない熱気を帯びた声に、神さまというものはひととひとを繋ぐ感情のあたりに、いるのだろうなあとおもいました。次の日の昼過ぎ、焚かれた湯を浴びて、この呪いはおおよそ解けただろうと思います。まだやや痛みますが、絵を描けば治ると思います。そういうものです。

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