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テーブルの向こう側、45cmとその指先

by 中村菜月

SCENE - 1

「……うん、でさあ、あたしがサラダ食べてたら、先輩のぶん取り分けなきゃ駄目でしょ、ビールもなくなってたら、お代わり如何ですかって声かけるんだよ、常識でしょ、って」

「すごいね、ザ・社会ってかんじする。きっと自分たち、社会に適合してるって思ってるんだ。社会って適合するとかしないとか、そういうものじゃないんだって、そういうことも考えてないよ、きっと。社会っていう得体の知れないものを、分かりきってて、それで適合してるって信じてて、もう、信じてるとかそういう次元ですらないんだよ。」

「大体、あたしは自分のペースで飲み食いすればいいと思うの。なんなのあれ、無駄、まっじで無駄。」

わたしは、スカートの皺を眺めていた。電話口の向こうから、電車の音が聴こえた。

SCENE - 2

 「えっ、合コン?行ったの?すごい!ほんとうに知らない世界だよ、いや、すごいや……どうだった?」

 

いつの間にか空になった小皿に餃子を取り分けた。二つ、いや、三つ食べよう。

「何かね、すごかったよ。結論から言うと何もなかった、笑っちゃうくらいに何もなかったんだけど、なんていうか、わあ~~、こういう人ってホントにいるんだって、もう、社会見学?悪い意味じゃないよ、もうね、ほんとちゃんとしてる、さすが大企業ってかんじの、うん、行かなかったら一生交わることのないような」

 彼女は大皿から餃子を取り、食べた。

SCENE - 3

「俺さ、昔茄子があんまり好きじゃなかったんだけど、あれ、お袋の調理の仕方がよくなかったんだよ。茄子って吸収するでしょ、茄子の役割ってあれだと思ってて、だからさ、ひたひたに何かを吸ってて欲しいんだよね。でもお袋の出す茄子はキュウリみたいにカチカチでさ、あ、なくなっちゃった。美味しいねこれ、もうちょっと食べていい?」

 

  彼はわたしに皿を手渡した。どのくらい?と聞くと、お肉を二枚と、あとは野菜を少しちょうだい、と言った。わたしはそのように取り分けて、はい、と手渡した。彼はありがとう、と受け取って、ついでにわたしの手に少しだけ触れた。

料理の取り分けは自分でやるのが一番よい(何をどのくらい食べたいのか、食べられるのかがわかっているから)と思っていたけれど、どうやらそればかりではない。

友人であれば「何をどのくらい」等よりもその時に行われている会話の方が重要で、「何をどのくらい」は会話を遮る無駄となる。だから「何をどのくらい」は自己完結させる方がよい。上司と部下の集う飲み会のような場であれば「何をどのくらい」など、自己満足と虚無のなすりつけあいでしかない。あるいは、「我々は友達ではなく上司であり、部下である」という一定の距離感を保つためのシグナルだろうか。

けれども、愛するひとに対しては「何をどのくらい」と聞くこと、「何をどのくらい」なのかと知ること、会話を遮ること、取り分けて手渡すこと、ありがとうと言われること、少しだけ手が触れること、そこで起こる現象のすべてが無駄でも自己満足でも虚無でもなく、同様なことであるように感じた。それはそのものであり、相手と、自分との間にあるすべてになるのだと気がついた。相手を確かめる重要な手掛かりとして、物事はフラットにそこにあるのだ。

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