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十六時の猫

by 中村菜月

   知らない雨が降った。山奥から起き出したカラスがわんわんと鳴く頃、空はピンク色に焼けた。大きな光が形のひとつひとつを白く刻み、辺りの影を青く落とした。一息ついて、人間たちは慌ただしく飛び出した。わたしは形の隙間で、カラカラになるまで寝転がった。穏やかな空気が少しだけ「寂しい」を連れ戻す頃、わたしはやっと起き上がって水溜まりへいく。それはわたしを取り巻く匂いや音、色、空気のあらゆる動きの中、同じようなリズムで繰り返される。特別なことといえば、知らない雨が降っているということだ。辺りは暗く、このような色の肌触りが、この、自動車の音と重なることはいままでに無かったように思う。この暗さが、非常に不思議である。神秘的である。まるで空気の真ん中が明るいままなのだ。それはここが、ほんとうではないからだと思う。ほんとうであれば、ここはもっと淡い水色をしているのである。少し向こうに目をやれば、実際に淡い水色をしているのだから。そして、この雨はあたたかい。きっとわたしと同じように、カラカラになるまで寝転がったのだろう。わたしの知っている雨は冷たい。

  雨は、わたしが道のこちらからあちらへと移動する間に降り終わってしまった。わたしはあたたかい形を見つけて、そこに寝転がった。間もなく、隣に古びた人間が腰掛けた。

「いやいや、変な雨だった」

人間はそう言って、わたしにカラカラの小魚をやった。人間はこのようにしてわたしにカラカラの小魚をやると、ぶつぶつと話し出し、わたしに人間の言葉を聴かせるのだ。そうしてわたしは一つずつ、人間の言葉で思考するのである。このようなことは、わたしを取り巻く匂いや音、色、空気のあらゆる動きの中で、同じようなリズムで繰り返される。特別なことといえば、変な雨が降ったことだった。

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